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【GLP-1受容体作動薬・GIP/GLP-1受容体作動薬-非臨床・臨床のエビデンスと実臨床における注意点】肥満症に対するエビデンスと注意点 【論文解説】下村伊一郎 医師

下村伊一郎 医師
下村伊一郎 医師の経歴

下村伊一郎 医師の経歴

1989年3月 大阪大学医学部医学科卒業
1989年4月 大阪大学第2内科学入局
1993年3月 大阪大学大学院医学博士課程修了(内科学)
1993年6月 市立豊中病院内科医員
1995年9月 テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター研究員(分子遺伝学講座)
1997年9月 同講座 Instructor
1999年6月 同講座 Assistant Professor
2001年4月 大阪大学大学院医学系研究科分子制御内科学(第2内科学)特任研究員
2002年4月 大阪大学大学院生命機能研究科・医学系研究科 病態医科学教授
2004年4月 大阪大学大学院医学系研究科分子制御内科学(第2内科学)教授
2005年4月 大阪大学大学院医学系研究科内分泌・代謝内科学教授
2012年4月 同院栄養マネジメント部長兼任

目次

GLP-1受容体作動薬の登場とその効果

GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬により、2型糖尿病の治療は著しく進歩しました。

この薬剤は、インスリン分泌を促進して血糖値を低下させる作用に加えて、食欲抑制や体重減少効果も期待されています。

そのため肥満症を持つ2型糖尿病患者に対して特に効果的で、従来の治療法では難しかった体重管理ができるようになりました。

さらに、心血管疾患のリスクを軽減するというデータもあり、心臓病や腎疾患を抱える患者にとっても服用するメリットがあります。

以下の表は、GLP-1受容体作動薬がもつ様々な効果をまとめています。

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効果具体的な説明主なメリット
インスリン分泌促進血糖値が高い時のみインスリンを増加させることで、低血糖のリスクを抑える。効果的な血糖コントロールと低血糖の回避
グルカゴン分泌抑制膵α細胞に作用し、血糖を上昇させるホルモンの分泌を抑制する。高血糖の予防と安定した血糖管理
胃排出遅延胃内容物の移動を遅くし、満腹感を持続させることで過食を防ぐ。食事量の管理が容易になり、過食防止に有効
食欲抑制中枢神経系に作用して食欲を自然に抑え、食事量を減らす。長期的な体重管理に貢献し、健康的な食生活をサポート
体重減少エネルギー消費を増加させ、脂肪の蓄積を防ぎ、持続的な体重管理を実現する。肥満関連疾患のリスクを軽減し、健康維持に貢献
心血管疾患リスクの軽減心血管イベントのリスクを下げ、心臓病や脳卒中などの予防に効果がある。重大な心血管疾患の予防、特にリスクの高い患者に有効

新しいGLP-1受容体作動薬チルゼパチドの登場

2023年には、さらに強力なGIP(グルコース依存性インスリン分泌促進ポリペプチド)とGLP-1の共受容体作動薬であるチルゼパチドが登場しました。

この薬剤は、従来のGLP-1受容体作動薬よりも高い体重減少効果を示しており、2型糖尿病患者にとって新たな選択肢となっています。

チルゼパチドはHbA1c(血糖値の指標)を大幅に改善すると共に、体重減少効果も著しいため、肥満症治療の分野で大きな期待を集めています。

以下の表は、チルゼパチドを含めた代表的なGLP-1受容体作動薬によるHbA1c変化と体重変化を比較したものです。

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薬剤投与頻度HbA1c変化(%)体重変化(kg)
エキセナチド1日2回-0.55 ~ -0.95-0.3 ~ -1.0
リラグルチド1日1回-1.0 ~ -1.3-0.1 ~ -2.6
リキシセナチド1日1回-0.3 ~ -0.750 ~ -1.31
持続性エキセナチド週1回-0.73-1.27 ~ -1.5
デュラグルチド週1回-0.84 ~ -1.05-1.04 ~ -2.54
セマグルチド週1回-1.43 ~ -1.53-2.75 ~ -3.56
チルゼパチド週1回-1.91 ~ -2.11-6.3 ~ -8.8

GLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1共受容体作動薬のパラダイムシフト

GLP-1受容体作動薬の肥満症治療における役割

GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の治療だけでなく肥満症治療にも広く応用されています。

特に体重管理が難しい患者にとって、GLP-1受容体作動薬は食事や運動療法に加えて使用される薬物療法として重要な位置を占めています。

GLP-1受容体を介して食欲抑制やエネルギー消費を高めることで、肥満症患者の体重減少を促進する役割があります。

肥満症患者においては、体重の5%以上が減少すると血圧の改善やインスリン抵抗性の低下が起こり、健康面でも良い効果があります。

特に肥満に関連する合併症の予防に効果的であり、医師の指導のもと長期的に使用されるケースが増えています。

GIP/GLP-1共受容体作動薬の登場による変革

GIP/GLP-1共受容体作動薬のチルゼパチドは2023年4月に日本で承認されましたが、これまでの治療法とは一線を画しています。

この薬剤は、従来のGLP-1受容体作動薬を超える体重減少効果を持ち、肥満症の治療に革命をもたらしました。

特に欧米では肥満症治療薬としての認可が進み、手術なしで20%以上も体重を減量できることが証明されています。

GIP/GLP-1共受容体作動薬は、従来の手術と同様の効果を持ちつつも非侵襲的な治療として人気を集めています​。

GLP-1受容体作動薬による長期的な体重管理効果とその課題

GLP-1受容体作動薬の長期的な体重減少効果

GLP-1受容体作動薬は、短期的な効果だけでなく長期にわたる体重管理にも効果があります。

セマグルチドを用いた臨床試験では、2年以上の治療で持続的に体重減少することが確認されています。

特に5%以上の体重が減少した患者が多く、これにより関連する健康リスクも大幅に低減されました。

すなわち、治療継続により患者が生活習慣を改善し、持続的な健康効果が得られるということから、長期的な体重減少効果が期待できるといえます。

GLP-1受容体作動薬の投与中断によるリバウンドリスクと対策

しかし、GLP-1受容体作動薬による治療を中断した場合、体重が戻るリスクも存在します。

STEP 1拡張試験では、セマグルチドの投与中止後に再び体重が増加し、代謝改善効果も消失しました。

このことは、体重管理のために治療を継続することがいかに重要かを示しています。

また、日常的な運動や健康的な食生活の指導により患者が生活習慣を改善し、治療を継続できる体制をサポートすることが重要です。

GLP-1受容体作動薬の適正使用と安全性

GLP-1受容体作動薬の不適正使用のリスクとその影響

GLP-1受容体作動薬は強力な効果を持つ反面、適正に使用することが求められる治療薬です。

医療機関の管理下で使用されるべきであり、不適正な使用によって重大な副作用を引き起こす可能性があり、過剰な投与や自己判断での使用は禁物です。

治療薬の不適切な使用は副作用のリスクを高め、医療費の増大や必要な患者への供給不足を引き起こす可能性があります。

また、医療費や医薬品の供給不足に繋がる懸念もあります。

米国ではセマグルチド(ウゴービR)の需要が供給を上回り、一部で流通制限が行われています。

これに対し、日本でも適切な使用と供給管理が重要視されており、医療機関による厳格な管理が求められています​。

GLP-1受容体作動薬による副作用と管理上の注意点

GLP-1受容体作動薬の主な副作用には、悪心や嘔吐などの消化器症状があります。

これらの副作用は用量依存的であり、治療の初期段階では特に注意が必要です。

また、胆石膵炎のリスクも考慮しなければなりません。

これらの副作用を避けるためには、医師による適切な監督と定期的な診察が不可欠です。

さらに、治療を受ける患者は食事療法や運動療法を併用することで、より安全に治療効果を高めることができます。

GLP-1受容体作動薬の次に現れる肥満治療薬の可能性

GLP-1受容体作動薬の未来と新たな治療法の登場

GLP-1受容体作動薬は肥満症治療における第一線の薬物療法として定着しましたが、次世代の治療薬も開発が進んでいます。

GIP/GLP-1共受容体作動薬に加え、GLP-1/グルカゴン共受容体作動薬、さらにはGIP/GLP-1/グルカゴントリプル受容体作動薬など、多様な薬剤が現在進行中の臨床試験で注目されています。

これらの薬剤を使用することで、GLP-1受容体作動薬を超える体重減少効果をもちながら副作用を軽減することを目指しており、肥満症治療にとって有用な薬剤となることが期待されています。

GLP-1受容体作動薬による肥満症治療と個別化医療の最前線

GLP-1受容体作動薬による肥満症治療は、今後ますます個別化医療の方向に進むと考えられています。

個別化医療においては、患者の遺伝的背景や生活習慣に基づいて最適な薬物療法を選択することが重要です。

GLP-1受容体作動薬やその派生薬によって患者個人の特性に合わせたアプローチが可能となり、医療の質が向上することに繋がります。

個々の患者に最も適した治療を行うためには、さらなる研究とデータの蓄積が必要です。

当記事で参考にした書籍
藤井崇博
ディオクリニック理事長
【経歴】
2011年 東邦大学医療センター大森病院 初期研修医
2013年 東邦大学医療センター大森病院 循環器内科レジデント
2018年 東邦大学医療センター大森病院 循環器内科シニアレジデント
2021年 循環器内科学分野で医学博士号取得

【資格】
医学博士
日本循環器学会認定 循環器内科専門医
日本内科学会認定 認定内科医
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